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熊本地方裁判所 平成2年(行ウ)13号 判決 1996年3月29日

原告 天下一家の会・第一相互経済研究所こと内村健一相続財産破産管財人 下光軍二 ほか三名

被告 熊本西税務署長、国、熊本県、熊本市 熊本西税務署長、国

両名代理人 小貫芳信 吉池浩嗣 有賀文宣 宮城直之 小沢満寿男 須田啓之 犬塚孝 阿部幸夫 宮崎和夫 柳原寛一 安東忠則 杉本孝敏 相良常氏 ほか七名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、補助参加人らの参加によって生じた費用は補助参加人らの負担とし、その余は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告熊本西税務署長が天下一家の会・第一相互経済研究所こと内村健一に対してした別紙一処分一覧表記載1ないし6の各処分をいずれも取り消す。

2  被告国は、原告らに対し、金九九億三八三五万五四〇〇円及びこれに対する平成二年九月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告熊本県は、原告らに対し、金四億八一一九万四七二〇円及びこれに対する平成二年九月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被告熊本市は、原告らに対し、金一億八八九六万三二一〇円及びこれに対する平成二年九月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は被告らの負担とする。

6  第2ないし第5項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告西税務署長

(本案前の答弁)

(一) 原告らの請求の趣旨第1項の訴えを却下する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

(本案の答弁)

(一) 請求の趣旨第1項の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

(三) 仮執行免脱宣言

2  被告国

(一) 請求の趣旨第2項の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

(三) 仮執行免脱宣言

3  被告熊本県

(一) 請求の趣旨第3項の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

(三) 仮執行免脱宣言

4  被告熊本市

(一) 請求の趣旨第4項の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

(三) 仮執行免脱宣言

第二事案の概要

本件は、天下一家の会・第一相互経済研究所(以下「第一相研」という。)に対し、被告熊本西税務署長(以下「被告西税務署長」という。)が、内村健一(以下「内村」という。)の主宰するねずみ講の事業主体が昭和四七年五月二〇日以降は内村個人から第一相研と称する人格のない社団になったとして、別紙一1処分一覧表1ないし6記載の各更正処分等(以下「本件各更正処分等」という。)をし、右各更正処分等を前提として、被告熊本県(以下「被告県」という。)が別紙一2処分一覧表記載の各更正処分をし、被告熊本市(以下「被告市」という。)が別紙一3処分一覧表記載の各更正処分をしたところ、内村の破産管財人である原告らが、第一相研は内村個人の別称にすぎないものであって、これを人格のない社団であるとして課税した右各更正処分等はいずれも前提となる事実を誤認してなされたものであって無効であり、右各更正処分等に基づき、国税及び地方税(法人県民税、法人事業税、法人市民税等)として納付された金員は法律上の原因なく不当に利得したものである旨を主張して、被告西税務署長に対し、本件各更正処分等の取消しを求めるとともに、被告国、被告県及び被告市に対し、不当利得返還請求権に基づき、別紙二課税関係一覧表の納付金額欄記載の各金員及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

なお、内村は、平成七年一月二日、死亡し、原告らは内村の相続財産破産管財人に選任されている。

一  争いのない事実等

1  原告らは、いずれも熊本地方裁判所昭和五四年(フ)第八号破産申立事件の破産者内村(昭和五五年二月二〇日破産宣告)の破産管財人である(争いがない。)。

なお、内村は、平成七年一月二日に死亡し、原告らは内村の相続財産破産管財人となった(当裁判所に顕著である)。

2  本件各更正処分等

(一) 第一相研は、その事業年度を毎年四月一日から翌年三月三一日までとし、昭和四八年三月期及びこれに続く四事業年度について、法人格のない社団として法人税確定申告書を被告西税務署長に提出した。これに対し、同被告は、昭和四七年五月二〇日に第一相研は人格のない社団として成立し、内村の主宰するねずみ講の事業主体は同日以降内村個人から第一相研と称する人格のない社団になったものと認定し、右各事業年度(なお、同被告は、昭和四七年五月二〇日を初年度(昭和四八年三月期)の始期とした。)の法人税について、別紙一1処分一覧表1ないし5記載の法人税更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をそれぞれ行った。

なお、被告西税務署長が第一相研に対して行った法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分並びに第一相研からされた確定申告及び不服申立ての経緯は、別紙三本件各課税処分経緯一覧表一記載のとおりである。

(二) また、被告西税務署長は、第一相研が昭和四七年五月二〇日に開催された創立総会等によって人格のない社団として成立し、内村から第一相研に対しその設立のための財産の提供ないし贈与があったものと認められたのに、第一相研から所定の期間内に贈与税の申告がなされなかったため、第一相研に対し、別紙一1処分一覧表6記載の贈与税決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分を行った。

なお、被告西税務署長が第一相研に対して行った贈与税決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分並びに第一相研からなされた不服申立ての経緯は別紙三本件各課税処分経緯一覧表二記載のとおりである。

(右(一)、(二)は、原告らと被告西税務署長との間で争いがなく、また、被告西税務署長が右各課税処分等をしたことについては、全当事者間に争いがない。)。

3  本件法人県民税、法人事業税及び法人市民税の各更正処分

(一) 第一相研は、昭和四七年五月二〇日以後の事業収益につき、別紙一2の申告額欄記載のとおり、法人県民税及び法人事業税を申告納付した。

被告県は、右2の法人税更正処分等がなされたことにより、第一相研に対し、別紙一2の各更正額欄記載のとおり熊本県法人県民税、法人事業税の各更正処分をした(原告らと被告県との間で争いがない。)。

(二) 第一相研は、昭和四七年五月二〇日以降の事業収益につき、別紙一3の各確定欄記載のとおり、法人市民税を申告納付した。

被告市は、右2の法人税更正処分等がなされたことにより、第一相研に対し、別紙一3の各更正欄記載のとおり熊本市法人市民税の各更正処分をした(原告らと被告市との間で争いがない。)。

4  第一相研は、右2、3項の各更正処分等に係る法人税等につき別紙二課税関係一覧表の納付金額欄記載の各金額を被告国、被告県及び被告市に納付した(原告らと被告西税務署長を除く被告らとの間で争いがない。)。

5  原告らと被告西税務署長間の所得税課税処分取消請求事件(一審・熊本地方裁判所昭和五三年(行ウ)第七号、控訴審・福岡高等裁判所昭和五九年(行コ)第四号)の判決は平成二年八月一日に、第一相研と被告西税務署長間の法人税更正処分・贈与税課税処分取消請求事件(一審・熊本地方裁判所昭和五三年(行ウ)第六、第七号、控訴審・福岡高等裁判所昭和五九年(行コ)第三号、第八号)の判決は同月二日にそれぞれ確定したが、各判決には、「第一相研は内村個人の別称というべきである」旨の判示部分がある(全当事者間に争いがない。)。

6  原告らは被告西税務署長を除く被告らに右4の納付金の返還を請求したが、右被告らは、右法人税更正処分・贈与税課税処分取消請求事件における判決の主文が訴え却下で、法人税更正処分等の処分が取り消されていないことを理由に、原告らの請求に応じない(<証拠略>)。

二  争点

1  本件各更正処分等の取消訴訟に関し、不服申立前置の要件が遵守されているか否か。

2  本件各更正処分等において、事実誤認による違法が存するか否か(具体的には、右各処分が第一相研が人格のない社団に該当するか否かについて事実を誤認したものであるか否か。)。

3  本件各更正処分等が事実誤認によるものであるとした場合、右各処分等が当然に無効であるか否か。

また、本件各更正処分等の存在を前提としてなされた被告県、被告市の課税処分についてはどうか。

4  原告らの本訴各請求が禁反言又は信義則違反として許されないか否か。

5  原告ら主張の不当利得返還請求権が過誤納金の還付請求権に関する時効により消滅したか否か。

三  争点についての当事者の主張の概略

1  争点1(不服申立前置違反)について

(被告西税務署長の本案前の抗弁)

原告らは、本件各更正処分等につき法定の不服申立期間経過後に異議申立てをしているから、本件各更正処分等の取消しを求める訴えは不適法である。

(原告らの反論)

(一) 本件は、「決定又は裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき」(国税通則法一一五条一項三号)に当たる。

(二) 本件訴えは、訴え提起時に不適法であったとしても、国税通則法一一五条一項一号により、審査請求から三か月を経過した平成三年三月一二日又は却下の裁決がされた同年七月九日の時点でその瑕疵が治癒された。

(三) 本件各更正処分等の通知は第一相研に送達されたが、第一相研には実体がないから不服申立期間は進行せず、原告らは、前記所得税課税処分取消請求事件が平成二年八月一日に確定したことにより本件各更正処分等が実質的に内村あてであることを知ったから、不服申立期間は右時点から進行するのであり、原告らは不服申立期間を徒過していない。

(四) 右前訴において被告西税務署長は原告らに不服申立適格があるという点を争っていたから、事実上法律上異議申立てを行うにつき障害があり、これは国税通則法七七条四項ただし書の「正当な理由があるとき」に当たる。

(被告西税務署長の再反論)

(一) 国税通則法一一五条一項三号は、不服申立期間を徒過している本件については適用されない。

(二) 国税通則法一一五条一項一号は、適法な不服申立てがされていることが前提となっており、不服申立期間を徒過した場合又は審査請求を却下する裁決がされた場合に不適法な訴えを適法とするものではない。

(三) 不服申立期間の遵守の有無は、処分のあったことを知った日の翌日から二か月を経過する日が処分のあった日の翌日から起算して一年を経過した日以前に到来する場合には、もっぱら国税通則法七七条一項、三項により、同条四項が適用される余地はないところ、本件において内村は本件各更正処分等の各当日ごろこれを了知しているから、国税通則法七七条四項ただし書の「正当な理由」の有無を論じる余地はない。

(四) 仮に国税通則法七七条四項の適用があるとしても、同条項の「正当な理由」とは、災害その他の原因による通信交通手段の途絶等の事由により、申立人がこれをすることが不可能ないし著しく困難な事情の存する場合をいうところ、本件においてこうした事情は存在しないし、前訴の課税処分取消請求事件が係属していたことや課税庁が不服申立適格を争っていたことは、何ら不服申立ての障害となるものではない。

2  争点2(本件各更正処分等の適法性)について

(一) 本件各更正処分等の課税根拠等について

(被告西税務署長及び被告国の主張)

本件各更正処分等のうち、本件係争年度の法人税に係る各更正処分は、後記のとおり、第一相研が昭和四七年五月二〇日に人格のない社団として成立したものであるから、法人税法二条八号所定の「人格のない社団等」に該当し、第一相研が行っていたねずみ講事業及び研修保養所等の経営に係る事業が同法二条一三号所定の「収益事業」に該当すると認定して、右事業による収益に対して別紙一1処分一覧表1ないし5記載のとおり法人税を課税したものである。また、贈与税の決定処分は、第一相研の設立の際又はこれに引き続いて内村から第一相研に対してその設立のための財産の贈与ないし提供があったものと認定して、相続税法六六条一項、二項の規定に基づき同表6記載のとおり贈与税を課したものである。

したがって、本件各更正処分等は適法かつ有効である。

(被告県の主張)

被告県は、第一相研に対し、地方税法二四条六項、熊本県税条例(以下「県税条例」という。)二六条六項に基づいて法人県民税を、地方税法七二条二項、県税条例三九条二項に基づいて法人事業税を課し、地方税法五五条一項、七二条の三九第一項、県税条例一条に基づき被告西税務署長の法人税の更正処分に準拠して別紙一2の更正額欄記載のとおり法人県民税及び法人事業税の更正等をしたものであるから、本件法人県民税及び法人事業税の更正処分等は有効である。

(被告市の主張)

被告市は、第一相研に対し、地方税法二九四条八項、熊本市税賦課徴収条例(以下「市税条例」という。)一八条三項、地方税法二九二条一項三号に基づいて法人市民税を課し、地方税法三二一条の一一第一項に基づき被告西税務署長の法人税の更正処分に準拠して別紙一3の更正欄記載のとおり法人市民税の更正等をしたものであるから、本件法人市民税の更正処分等は有効である。

(原告らの主張)

本件各更正処分等及び本件法人県民税、法人事業税及び法人市民税の各更正処分には、第一相研は昭和四七年五月二〇日以降も依然として内村の別称にすぎなかったのに、これを人格のない社団と認定して課税した誤りがあるから、右各更正処分等は無効である。

(二) 第一相研が人格のない社団に当たるか否かについて

(被告らの主張)

(1) 人格のない社団の意義

民事実体法上の人格なき社団の概念自体相対的で、その法律効果は社会的実体に応じてさまざまであるから、民事実体法上の人格なき社団の概念が一義的に定まっていることを前提に、民事実体法上の人格なき社団の概念と税法上の人格のない社団の概念を同一に解釈することはできない。したがって、本件において、民事実体法上の人格なき社団と区別する意味で、人格のない社団という。

ある団体が税法上の人格のない社団に当たるか否かは、当該団体が経済的実質的な所得の帰属主体として評価し得るか、社団固有の財産が構成員個人の財産から明確に区分され、その管理・運営のための執行機関が備わっているか否かという点を重視して判断すべきであり、その組織や運営の形式面・手続面に一部不完全な点があることを理由に社団の成立を否定することは相当でない。

(2) 人格のない社団の成立要件

最高裁判所昭和三九年一〇月一五日第一小法廷判決(民集一八巻八号一六七一頁。以下「最高裁昭和三九年判決」という。)は、人格なき社団の成立要件として、<1>団体としての組織を備えていること、<2>多数決の原則が行われていること、<3>構成員が変更しても団体そのものは存続すること、<4>その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していること(以下「四要件」という。)を挙げるが、右四要件のうち、<2>の要件は、団体の意思決定の方法は、国家が強行法規により介入して画一的に規制すべき問題ではなく、私的自治すなわち団体の内部規約によって定められるべきものであるから、最高裁昭和三九年判決は、社団の運営に際しては多数決の原則が行われるべきことを理念的に判示したにすぎないものというべく、具体的事案の解決に当たって、<2>の要件をあまり重視することは相当でないというべきである。

(3) 第一相研の人格なき社団該当性

第一相研においては、<1>団体意思決定機関としての会員総会が、業務執行・代表機関としての理事会及び会長が各存在し、それらが現実に機能していたこと、<2>団体財産が構成員の固有の財産から独立し、管理処分の対象となっていたこと、<3>団体としての組織を備えていたこと、<4>構成員の変更にもかかわらず、団体の存続性が認められたこと、<5>代表の方法、総会の運営等団体としての主要な点が確定していたこと等にかんがみると、その活動の実態において些少な疑義はあるものの、昭和四七年五月二〇日の創立総会開催の時点で、最高裁昭和三九年判決の四要件を満たしていたものというべきである。

(原告らの主張)

税法上の社団性の概念と民事実体法上の社団性の概念は同じである。したがって、本件において、税法上の人格のない社団も含めて人格なき社団という。

人格なき社団が有効に成立するためには、当該団体が前掲最高裁判決の四要件を具備するのみならず、当該団体の設立行為が法律行為一般に関する有効要件を備えていなければならない。

また、たとえ社会的な実体としては団体の存在が認識されるとしても、構成員の多数意思による運営が確保されていない等民主的法秩序全体の観点と相容れない団体に対しては、人格なき社団としての地位を与える途はない。

<1>昭和四七年五月二〇日の創立総会当時、社団の構成員となるべき講会員が不特定、不明確であり、かつ、社団成立に向けての団体意思を有しておらず、人格なき社団と認定するための前提たる人的組織としての社会的実体を有していなかったこと、<2>創立総会に向けての手続はおよそ社会的実体を有する組織の社団成りの手続とはいえないこと、<3>創立総会で承認可決された定款は、講会員の意思を全く無視したものであり、法律上効力がないこと、<4>昭和四八年一月二三日の理事会決議によれば、総会代表を選出する権利を有する会員は、購加入者総数の三・九一パーセントにすぎず、各県支部の会員の意思を集約してその代表を選出することは不可能であったこと、<5>第一相研の業務執行体制は、定款上内村が理事会に優越する絶対的権限を有し、現実の業務執行に当たっても、内村がすべての重要事項につき決定をしており、他の理事、監事等が内村の決定を抑制することはできなかったこと、<6>第一相研に引き継がれた財産の範囲は明確でなく、第一相研から内村個人の刑事裁判費用等が支払われるなど経理面でも混乱があることなどの諸事情を総合すると、第一相研は人格なき社団に該当しないというべきである。

3  争点3(本件各更正処分等の有効性)について

(被告らの主張)

仮に第一相研が昭和四七年五月二〇日の時点で人格のない社団として成立したと認められないとしても、行政処分はその瑕疵が重大かつ明白である場合に初めて無効となるところ、本件各更正処分等には重大かつ明白な瑕疵があるとはいえないから、無効ではない。

(原告らの主張)

(一) 本件各更正処分等は、法主体として存在しない第一相研に対してなされたものであるから不存在というべきであり、課税処分の重大かつ明白な瑕疵の要件を問題にするまでもなく無効である。

(二) 仮に行政処分の不存在の問題ではないとしても、本件各更正処分等は瑕疵の明白性を要しない場合(最高裁昭和四八年四月二六日第一小法廷判決(民集二七巻三号六二九ページ)参照)に当たる。

(三) 仮に重大かつ明白な瑕疵の問題としても、本件各更正処分等は法人税を課すべきでない者に法人税を課したものであるから、重要な法規違反すなわち重大な瑕疵があり、かつ、この点は昭和五一年三月の時点で明白であった。

4  争点4(禁反言ないし信義則違反)について

(被告らの主張)

仮に第一相研が人格のない社団に当たらず、本件各更正処分等並びに本件法人県民税、法人事業税及び法人市民税の各更正処分は無効であるとしても、第一相研が人格のない社団であるとしてその名の下に事業活動を展開するとともに、確定申告等を行うなどした、右各更正処分等に至る内村の行動とこれを前提として被告西税務署長らが対応したことに加えて、更正期間の経過によりねずみ講事業にかかる所得を内村個人の所得として課税することができないことをも考慮すると、内村の破産管財人である原告らが、第一相研が人格のない社団に該当しない旨を主張することは禁反言ないし信義則に違反する。

特に、内村個人にもはや課税できない本件において、原告らの主張が認容され、返還請求が求められると、租税負担を軽減しようとした内村の不正な意図に手を貸す以上に、さらに内村の意図したところによる税負担部分をも免れさせる結果となる。

また、破産管財人は、破産者と債権者及び債権者相互間の利害が対立する破産手続の中で、破産法の規定に基づく機関として関係人の利害の調整を図ることを職務とする者であり、破産者が主張し得ない事実を主張したり、許されない権利を行使し得るということは妥当性を欠く。破産管財人といえども禁反言ないし信義則の法理から排除される理由はなく、この理は租税法律関係においても何ら異ならない。

(原告らの反論)

租税法には実質課税の原則があるところ、内村に実質上の所得があり、しかも、内村が違法なねずみ講事業を隠蔽、糊塗する目的で人格なき社団の形態を作り出したのであるから、第一相研に人格なき社団性を認めることは実体に反するのみならず、課税関係においては、結果として内村の不正な意図に手を貸すことになる。

また、破産管財人は破産債権者の利益保護等のため、詐害性のある譲渡行為等を否認するなどして破産財団の形成に努めるという公益的立場も有しているから、破産管財人が破産者内村と別個固有の攻撃防御方法を提出することも許される。

5  争点5(過誤納金の還付請求権の消滅時効)について

(被告らの主張)

仮に本件各更正処分等が無効だとしても、本件過誤納金の還付請求権については、五年の短期消滅時効(国税通則法七四条一項、地方税法一八条の三第一項)にかかり、既に消滅している。

すなわち、無効な申告又は課税処分に基づいて納付がされた場合の還付請求権の消滅時効の起算点はその納付があった日と解するのが確定した最高裁判例(最高裁昭和五二年三月三一日第一小法廷判決・訟月二三巻四号八〇二頁)であるところ、本件更正処分に係る法人税が納付されたのは、昭和五一年三月一一日から昭和五三年五月三一日までの間であり、本件贈与税決定処分に係る贈与税が納付されたのは、昭和五一年三月一一日(附帯税については同年五月六日)であり、また、本件法人県民税及び法人事業税が納付されたのは、昭和五一年三月二五日から昭和五二年五月二四日までの間であり、本件法人市民税が納付されたのは、昭和五一年三月一八日から昭和五二年五月二五日までの間であるから、本件において、納付があった日から五年を経過していることは明らかである。

なお、本件各更正処分等は前訴判決の確定によって実質的に取り消されたという原告らの主張は、本件各更正処分等が当然に無効であるとして本件過誤納金の還付を求めていることと矛盾する。

(原告らの反論)

本件各更正処分等は前訴判決の確定により実質的に取り消されたものであるから、本件還付請求権の「請求をすることができる日」(国税通則法七四条一項、地方税法一八条の三第一項)は、同判決が確定した日の翌日である平成二年八月三日とみるべきであり、本件の訴え提起時にはまだ消滅時効にかかっていない。

被告らの消滅時効の主張は、信義則に反し許されない。

第三争点に対する判断

一  まず、本件各更正処分等の課税処分等がなされるに至る経緯についてみるに、前記争いのない事実に加えて、<証拠略>によれば、以下の事実が認められる。

1  内村は、昭和四二年三月以来、いわゆる無限連鎖講(金品(財産権を表彰する証券又は証書を含む。以下「金品」という。)を出えんする加入者が無限に増加するものであるとして、先に加入した者が先順位者、以下これに連鎖して段階的に二以上の倍率をもって増加する後続の加入者がそれぞれの段階に応じた後順位者となり、順次先順位者が後順位者の出えんする金品から自己の出えんした金品の価額又は数量を上回る価額又は数量の金品を受領することを内容とする金品の配当組織。以下「ねずみ講」という。)を自ら考案し、「親しき友の会」等の名称で第一相互研究所の名の下に実施して、多数の入会者から入会金等の名目で多額の金員を収受していた。

ねずみ講の会員数が激増していったことから、内村は、これを組織的に整備することを企図し、昭和四五年末ごろ、ねずみ講の運営の指針となる「第一相互経済研究所主旨・綱領」を作成し、さらには、第一相研の名称を使用してこれを社団法人化しようとして、定款案の作成に着手したが、結局、人格のない社団の形式で講事業の運営を図ることとし、右定款案に手を加えた上、昭和四七年一月二七日、ねずみ講の本部関係者、支部関係者らの出席の下、第一回発起人総会を開催した。右総会においては、右定款案が審議され、同年五月一一日の第二回発起人総会においては、さらに右定款案が検討されるとともに、役員の選任、創立総会の開催日程が議決された。右発起人総会の議決に基づき、同月一二日、右役員による理事会が行われた後、同月二〇日、右発起人総会の議決に従って第一相研の創立総会が開催され、「天下一家の会・第一相互経済研究所定款」案や予算案、理事選任案等を審議され、別紙四記載の内容の定款、別紙五基本財産目録記載の基本財産及び事業予算の承認並びに役員の選任等が議決された(以下「創立総会」という。)。

2  右創立総会以降、内村は、第一相研なる人格のない社団が成立したとして、同名称の下に活動を開始し、昭和四七年六月七日ごろ、国税庁長官、熊本国税局長、熊本県知事及び熊本市長に対し、「第一相研会長内村健一」名で、第一相研の定款、基本財産目録及び創立総会の議事録を送付し、また、ねずみ講事業に従事する職員の給与支払については、同年七月四日、被告西税務署長に対し、第一相研代表者内村名義の給与支払事務所は同年五月一九日付けで廃止された旨の届出をするとともに、第一相研代表内村名義の給与支払事務所が同月二〇日付けで開設された旨の届出をした。

さらに、内村は、第一相研が人格のない社団であるとして、昭和四八年五月三一日、昭和四七年四月一日から昭和四八年三月三一日までの会計年度分(以下「昭和四八年三月期分」という。)の法人税納税額として別紙三本件各課税処分経緯一覧表一イ記載のとおりの確定申告をする一方、内村個人の昭和四七年度分の所得税の確定申告をし、以後、昭和五一年四月一日から昭和五二年三月三一日までの会計年度分(以下「昭和五二年三月期分」という。)まで、同様に第一相研の法人税、内村個人分の所得税の各確定申告をした。

3  熊本国税局は、第一相研が法人税法二条八号の人格のない社団に該当するか否か及びねずみ講事業が収益事業に当たるかにつき検討を重ねた末、「(一)第一相研が人格のない社団と認められる。(二)社団の構成員については、講の全加入者を構成員とみるのが相当である。(三)ねずみ講事業は周旋業に該当し、収益は課税対象となる。」との判断に達したものの、さらに昭和四九年五月一六日付けで、上級庁である国税庁に対し、第一相研は人格のない社団としての実体を備えているか否かについての見解を求める旨の上申書を提出し、判断を仰いだところ、国税庁は資料を検討し、昭和五一年三月に至って、ほぼ熊本国税局と同様の見解である旨の回答をした。

4  被告西税務署長は、右回答を受けて、第一相研に対し、昭和五一年三月一一日付けで別紙一1処分一覧表1記載の法人税更正及び過少申告加算税賦課決定を行うとともに、創立総会において、内村の所有であった定款の別紙基本財産目録(別紙五)記載の財産が第一相研に属する財産とされたこと(定款九条)、及び、右創立総会以降昭和四七年中に内村から現金、預金その他の債権等を逐次贈与されたことについて、「人格のない社団設立のための財産の提供があった場合」(相続税法六六条二項)に当たるとして、別紙一1処分一覧表6記載の贈与税決定及び無申告加算税賦課決定をした。被告西税務署長は、以後、第一相研に対し、同表2ないし5記載の各年月日に法人税更正及び過少申告加算税賦課決定を行った。

これに対し、第一相研は、昭和五一年三月二九日、昭和四八年三月期分の法人税更正及び過少申告加算税の賦課決定並びに右贈与税決定及び無申告加算税賦課決定につき、第一相研名で異議申立てをし、以後、昭和五二年三月期分に至るまで各年三月期分の法人税更正及び過少申告加算税の賦課決定に対し、別紙三本件各課税処分経緯一覧表の異議申立て欄記載の各年月日に第一相研名で異議申立てをした。なお、第一相研によるその後の不服申立ての手続の経緯は別紙三本件各課税処分経緯一覧表記載のとおりである。

5  被告県は、右法人税更正等を受けて、昭和五一年三月二五日付けで第一相研に対し、別紙一2記載のとおり法人県民税及び法人事業税の更正等をし、以後、昭和五二年三月期分までの法人県民税及び法人事業税について、同表の更正年月日欄記載の各年月日に更正等を行った。

これに対し、第一相研は、昭和五一年四月八日、右昭和四八年三月期分について第一相研名で審査請求を行い、以後、昭和五二年三月期分までについて同様に審査請求を行った。

6  また、被告市も右法人税更正等を受けて、昭和五一年三月一七日付けで第一相研に対し、別紙一3記載のとおり法人市民税の更正等をし、以後、昭和五二年三月期分までの法人市民税について、同表の更正年月日欄記載の年月日に更正等を行った。

これに対し、第一相研は、昭和四八年三月期分から昭和五〇年三月期分については、各更正等の後まもなく更正後の金額に従って法人市民税を納付していたが、昭和五一年三月期分については昭和五三年三月八日付けで、昭和五二年三月期分については同年六月一二日付けでそれぞれ第一相研の名で異議申立てをした。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  そこで、本件各更正処分等が適法か否かについて判断するに、争点1(不服申立前置)の判断に先立ち、本件各更正処分等が、第一相研を人格のない社団であるとしたことについて事実を誤認した結果に基づく違法な処分であるか否かについて、まず検討を加えることとする。

1  被告らは、民事実体法上の人格なき社団と税法上の人格のない社団とは異なる概念である旨主張するが、税法上の人格のない社団の概念も、当該社団が社会的に実在することに着眼し、権利能力なき社団として認知された民事実体法上の概念を借用した上、納税主体をこのような社団概念に準拠して捕捉しようとするものであるから、民事実体法上の人格なき社団の概念と同義に解するのが相当である。よって、被告らの右主張は採用することができない。

2  人格なき社団の成立要件について

そこで、次に人格なき社団の成立要件について検討する。

(一) 人格なき社団の成立要件としては、(イ)団体としての組織を備えていること、(ロ)多数決の原則が行われていること、(ハ)構成員が変更しても団体そのものは存続すること、(ニ)その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していることを要すると解するのが相当である(前記最高裁昭和三九年判決参照)。

(二) この点につき、原告らは、社団が有効に成立するためには、右四要件のほか、当該社団設立行為が民法九〇条等法律行為一般に関する有効要件を備えていなければならないところ、第一相研は公序良俗に反するねずみ講事業を遂行する組織であるから、このような事業を行う社団の設立行為は民法九〇条に照らし違法無効である旨主張する。

しかしながら、人格のない社団が成立するか否かは、当該人格のない社団が社会的実体を有するものとして実在するか否かにより決せられるべきものであり、当該人格のない社団の設立目的の如何により左右されるべきものではないといわなければならない。そして、人格のない社団として実在するに至った後は、当該人格のない社団は活動を開始し、必然的に多数の法律関係を形成し、殊に対外的関係においては、当該人格のない社団の財産を引き当てとして法律関係を形成する第三者が生じてくるから、当該人格のない社団の真の設立目的が不法なものであるという一事から直ちに当該人格のない社団の設立行為の効力が否定されると、法律関係の安定を著しく害する結果となる。このことは、法人格を認められた社団、すなわち法人においてさえ、法人が公益を害すべき行為をし、また、設立が不法の目的をもってなされたときなどで、他の方法により監督の目的を達することが不可能である場合には、公益法人にあっては主務官庁が設立許可を取り消すこととされ(民法七一条)、営利法人にあっては裁判所が法務大臣、株主等の請求により会社解散命令を発することとされるが(商法五八条一項一号)、当該法人は解散して清算手続に移行するにとどまり、それ以前に行った法律行為の効力が否定されないことはもちろん、それ以降も清算の目的の範囲内で依然として権利能力、行為能力が認められるとされていること(民法七一条、商法一一六条)に照らしても、明らかであるといわなければならない。

したがって、原告らの右主張は採用することができない。

3  そこで、第一相研が前記四要件を満たしているかどうかについてみるに、前記四要件を満たしているかどうかは、事実認定の分野に属するものであるから、右四要件を満たすに足りる証拠があるかどうかということだけを検討すれば足り、その検討においてねずみ講が公序良俗に反する事業であり、その被害者である講会員を救済する必要があるとしても、右公序良俗違反の点を考慮する必要はないし、むしろすべきでないというべきである。また、右四要件の当てはめにおいて、多くの裁判例において人格のない社団として認められた程度にその要件を満たしているかどうかを検討すれば足り、必要以上に厳格に適用し、実質的に右公序良俗違反の点を考慮することは相当でないというべきである。

括弧内掲記の証拠によれば、以下の事実が認められる。

(一) 第一相研の構成員の資格・範囲について

第一相研の定款<証拠略>では、会員資格に関し、「本会の目的に賛同し、本会の立案育成する相互扶助の組織に加入した者を会員とする。」と規定され(七条一項)、入会手続に関しては、「前項の組織に加入するにはその都度所定の申込書に入会金を添えて本会に提出するものとする。」と規定されている(同条二項)。さらに、「会員が死亡したとき」、「会員から退会の申出があったとき」及び「会員が本会の定款の規定に違背したため除名されたとき」には、会員資格を失うものと定められている(八条)。

もっとも、定款七条三項には「会員となった者は毎年一回以上同一組織に加入するものとする。」と規定されており、また、第一相研の会員証には、有効期限を一年間とする旨の記載があり、見舞金の受領期限、研修保養施設の無料利用権も一年間とされている<証拠略>が、ねずみ講の仕組み自体からみても、入会後会員が満額を受領するまでには一定の期間を当然に必要とし、年限に関係なく会員資格が存続するものであって、第一相研の役員らも、一年以内に再加入を行わなかった会員も資格を喪失するものではないと認識していた<証拠略>。したがって、定款七条三項の講組織への再加入に関する規定は、第一相研の標榜する相互扶助等の目的達成のために、会員の努力目標として掲げられた規定であり、会員資格の喪失事由については、定款八条がこれを限定的に列挙し、右以外の事由が会員に生じたとしても、会員が資格を喪失することはなかった。

(二) 第一相研における団体の意思決定、業務執行、対外的代表等を行う機関とその運営の実態

(1) 会員総会

<1> 会員総会に関する定款の定め

第一相研の会員総会の構成員は、定款においては、各支部において選出された会員代表であり、その数は、各支部の会員数に応じて理事会で決定し(一五条)、会員総会の運営は、会長が議長としてこれに当たり(一六条)、その決議は、会員代表の二分の一以上が出席して、その過半数をもってこれを決すること(一七条)とされていた。そして、総会に付議される事項として、<1>基本財産の処分、<2>歳入歳出予算及び歳入歳出決算の承認、<3>定款の変更、<4>その他会長の付議する事項が定められていた(一八条)。

<2> 理事会における会員代表数の決定

A 昭和四七年五月一二日開催の理事会では、熊本県支部は二〇名、その余の各県支部は一五名とし、その選出方法は、各県の実情に応じて各県支部にゆだねることを全員一致で決定した<証拠略>。

B 同年八月二六日開催の理事会では、今後各県支部選出の会員代表数は各県支部五名とするが、既存の県支部の会員代表数は従前どおりとした<証拠略>。

C 昭和四八年一月二三日開催の理事会では、対象を昭和四六年六月五日の査察以後の会員に限る、県支部のないところは隣接する県支部が担当して代表を決定する、会員代表の総数は一二〇名とするものとした<証拠略>。

D 昭和四九年三月一二日開催の理事会では、各県別入会口数に基づき昭和四九会計年度会員代表数を一八〇名とした<証拠略>。

E 昭和五〇年四月三〇日開催の理事会では、昭和五〇年の会員代表数を決定したが、人数は明らかでない<証拠略>。

F 昭和五一年一月二一日開催の理事会では、昭和五一年度の会員代表数を三〇〇名とすることに決定し、各県別会員代表数は、一年間の各県の会員増加数の実態を考慮した上、各理事が調整して各県別代表数を決定した<証拠略>。

G 昭和五二年一月一八日開催の理事会では、昭和五二会計年度の会員代表数を前年同様三〇〇名と決定し、支部の存在する県から二名以上は選出すべきであるという意見に基づき、原案を修正の上、四一都道府県の配分を決定した<証拠略>。

H 昭和五三年一月一九日開催の理事会では、昭和五三会計年度の会員代表数を前年同様三〇〇名と決定し、各県別の代表の配分については、各理事から意見が提出され、審議の結果、一都道府県から二名とし、残りを会員数で比例配分することとして、原案を修正の上、四七都道府県の配分を決定した<証拠略>。

I 昭和五四年一月三一日開催の理事会では、四七都道府県全体の会員代表数を一五〇名に減員し、県支部、連絡事務所所在県の代表会員を二名とし、その余を入会口数四〇〇口につき一名を選出する旨の決定をした<証拠略>。

右に認定したところによれば、昭和四六年六月四日までねずみ講に加入していた者は、その後の再加入者を除いて無視されることになったことなどの問題点はあるものの、各県支部の会員代表数及び選出方法は、各支部又は県単位の会員数に比例配分し<証拠略>、さらに、一年間の会員増加数を考慮の上で決定されるなど会員の意見が民主的に反映されるように順次整備されていった<証拠略>。

<3> 県支部大会の開催状況

第一相研では、定款五条において、必要に応じて支部を設置することとされており<証拠略>、創立総会後の昭和四七年一一月には、支部運営規則が制定されて、支部の統一的運営が図られていた<証拠略>。同規則によれば、支部長は年一回理事会で決定された会員代表数に応じて、会員の選挙又は互選の方法により会員代表を選出することとされている(一二条)。昭和四八年から昭和五二年までの間に開催された各支部大会の開催状況を具体的にみると、別紙六昭和48年ないし昭和52年における県支部大会の開催状況記載のとおりである<証拠略>。

また、会員代表の選出のための支部大会を開催する際、各支部では、右支部運営規則の精神を尊重し、地元紙に広告を掲載したり、チラシを作成して新聞の折り込みを行ったり、往復はがきや案内状を送付したり、県支部の下部機関である地区支部の役員や思想普及員である研修生を通じて口頭や電話で支部大会の開催を会員に通知しており、その結果、相当数の会員が出席し、中には一〇〇〇名以上の会員が出席した大会もあった<証拠略>。

<4> 会員総会の開催状況

A 創立総会

昭和四七年五月二〇日、会長、理事、監事等の本部関係者のほか、会員代表総数一四〇名中九四名(うち委任状提出者五四名)及び支部外会員代表として石川県二名、長野県一名及び長崎県三名の会員が出席し、第一相研の本部ビルにおいて創立会員総会が開催された。右創立総会では、定款、基本財産(第一相研に帰属する主たる事業用財産)及び予算案が承認されたほか、理事、監事等の役員の選任等が行われた<証拠略>。

なお、総会に出席する県支部の会員代表数は、前記のとおり、同月一二日に開催された理事会において決定されたものである<証拠略>。

B 臨時会員総会

昭和四七年九月二八日、会長、理事、本部各部長及び会員代表数一一三名中一一〇名(うち委任状提出者七七名)が出席し、第一相研本部において開催された。

右総会は、台風により被害を受けた別府研修・保養所の建物を、新館部分を除いて理事会の承認のみに基づいて取り壊されたことにつき、定款の規定に従って事後承認を得るために開催されたものである<証拠略>。

C 第二回会員総会

昭和四八年五月二八日、支部選出会員代表一一七名(うち委任状提出者三九名)、参与九名、本部関係各部長八名、課長一名及び顧問弁護士等二名が出席し、熊本県阿蘇郡阿蘇町所在の「天下一家の会平和道場」(以下「平和道場」という。)において、第二回会員総会が開催された。

右総会では、昭和四七会計年度の事業収支計算書及び昭和四八会計年度の歳入歳出予算案が承認されたほか、これより先に行われた理事会において承認可決された役員の改選や、熊本県甲佐町の旧畜研用地を基本財産へ組み入れる件が定款一八条の規定に基づいて承認されている<証拠略>。

D 第三回会員総会

昭和四九年五月二三日、支部選出会員代表一八〇名中一五七名(うち委任状提出者三〇名)、顧問、参与及び理事等二五名、本部関係者八名が出席し、平和道場において開催された。

右総会では、昭和四八会計年度決算及び昭和四九会計年度予算案が承認されたほか、三名の新理事の選任、定款一八条に基づく基本財産の一部である(旧畜研用地)の財団法人天下一家の会への寄附が審議され、承認された<証拠略>。

E 第四回会員総会

昭和五〇年五月三〇日、支部選出会員代表三〇〇名中二七八名(うち委任状提出者二二名)、顧問、参与、理事、本部関係者等が出席し、平和道場において開催され、昭和四九会計年度決算及び昭和五〇会計年度予算案のほか、先に理事会において承認され、施行されている「天下一家の会・第一相互経済研究所共済組合規約」が承認された<証拠略>。

F 第五回会員総会

昭和五一年五月三〇日、支部選出会員代表三一一名中三〇二名(うち委任状提出者九名)、顧問、参与、理事、本部関係者等が出席し、平和道場において開催され、昭和五〇会計年度決算及び昭和五一会計年度予算案を承認し、役員改選が行われた<証拠略>。

G 第六回会員総会

昭和五二年五月三〇日、支部選出会員代表三〇〇名中二七三名(うち委任状提出者二七名)、顧問、参与、理事、本部関係者等が出席し、平和道場において開催され、昭和五一会計年度決算及び昭和五二会計年度予算案を承認するとともに、長野地方裁判所の判決への対応策につき審議がなされた<証拠略>。

H 臨時会員総会

昭和五二年九月八日、支部選出会員代表三〇〇名中二一三名(うち委任状提出者八〇名)、顧問、参与、理事、本部関係者等が出席し、東京都千代田区九段の財団法人天下一家の会会館において、臨時会員総会が開催され、右長野地方裁判所判決に対する控訴審に会員代表が補助参加する件及び宗教法人大観宮に基本財産である研修保養所を寄附する件が承認可決された<証拠略>。

I 第七回会員総会

昭和五三年五月三〇日、支部選出会員二九八名中二六六名(うち委任状提出者一三名)、顧問、参与、理事、本部関係者等が出席し、平和道場において開催され、昭和五二会計年度決算及び昭和五三会計年度予算案を承認するとともに、役員の定数補充につき審議された<証拠略>。

J 第八回会員総会

昭和五四年四月一一日、支部選出会員代表一五〇名中一四〇名(うち委任状提出者三三名)、顧問、参与、理事、本部関係者等が出席し、大観宮国際平和祈念会館において開催され、昭和五三会計年度決算報告、無限連鎖講防止法の改正及び会員救済請願陳情の件等を承認するとともに、昭和五四年五月一一日以降講活動が規制されることに対する会としての対応について審議し、さらに、一部会員の破産申立てに反対する旨を決議した<証拠略>。

<5> 決議内容等の周知方法

第一相研は、「天下一家の会員ニュース広報」を発行して、新規加入者に郵送し、あるいは、各支部及び地区支部や有力会員ないし思想普及員を通じて既存会員に配布することで、創立総会開催後は、定款の内容、会員の思想並びに支部・本部の行事及び活動状況を周知させていた<証拠略>。

また、昭和四七年五月二〇日以降入会した会員(再加入者を含む。)に対しては、会員証とともに定款パンフレットを郵送することで、定款の内容の周知を図っていたし<証拠略>、会計年度ごとに作成する事業報告書でも、昭和五〇年以降は、第一相研の事業内容及び会員総会で承認された事業報告・予算等とともに、定款の内容を掲載し、これを会員に郵送し、また支部事務所に備え付けることで、会員一般に対する周知を図っていた<証拠略>。

そして、これらの印刷物の印刷部数は、昭和四七年六月三〇日以降昭和四九年末までの間に、定款が一〇万七八〇〇部、天下一家の会員ニュース広報が二六万部、事業報告書が七万一一〇〇部であり、他方、この間の講加入者数約八万七七四〇口であるから<証拠略>、加入者の相当数が定款及び第一相研の事業内容を了知していたものと推測される。

また、会員は、定款及び事業報告書等を備え付けている本部及び支部にその閲覧を請求することができ<証拠略>、これによってその内容を了知し得た。

(2) 理事会

<1> 構成等

第一相研の理事会の構成員は、会員中から会員総会の決議ないし終身理事・会長たる内村の指名により選任された理事であり、その数は一五名以上三〇名未満と定められ、理事は、理事会を組織することで、会務の執行を決定することとされていた(定款一九条、二〇条、二一条三項)。そして、理事会に付議すべき事項として、(イ)事業計画、(ロ)支部の設置、(ハ)歳入歳出予算及び歳入歳出決算に関する議案、(ニ)定款変更に関する議案、(ホ)その他会長の付議する事項が定められていた(二五条)<証拠略>。

<2> 決算事項等

理事会では、審議事項につき理事の多数決により決定していた<証拠略>。その内容は、別紙七理事会議事録等一覧表記載のとおりであり、うち、会員総会の会員代表数(定款一五条二項)に関するものは、前示(1)<2>のとおりであるが、それ以外の主なものを列記すると、以下のとおりである。

A 昭和四七年七月二〇日、会長に対して報酬六五万円及び交際費三〇万円を、理事及び副会長に対して報酬三〇万円及び交際費五万円をそれぞれ毎月支給すること並びに平島、玉名、別府、妙高及び熱海の各研修保養所を老人クラブに対しては無料で利用させることなどを決定した<証拠略>。

B 同年八月二六日、前記別府研修・保養所建物につき、来月開催予定の臨時会員総会において事後承認を得ることとして、理事会で一部解体を承認するとともに、長野支部を正式に承認決定した<証拠略>。

C 同年九月二八日、新たな無限連鎖講としての「花の輪A、B、C」の三コースを開設すること、各県支部に対して支部経費として月額三〇万円を支給すること、県支部経理規定を早急に制定すること及び兵庫県支部を正式に県支部として承認することが決定された<証拠略>。

D 同年一一月二五日、支部運営規則を承認・決定するとともに、熊本県甲佐町の旧畜研用地を基本財産に組み入れることを承認・決定した<証拠略>。

E 昭和四八年三月二九日ないし同月三一日、昭和四七会計年度決算及び昭和四八会計年度以降の予算案の策定方針を承認するとともに、青森県等一一支部から提案された事業計画を承認し、定款二四条に基づいて顧問・参与を置くことに決定し、さらに、昭和四七会計年度の役員報酬及び職員期末手当並びに役員・役員代表の旅費日当の件などについて審議・承認した<証拠略>。

F 同年六月一九日、一般会員の指導に当たる体制を作るために、希望する会員に対し平和道場で研修を行うこと等を決定した<証拠略>。

G 同年九月四日、「研修制度及び運営の定め」を承認・決定するとともに、内村会長から提案のあった本部隣接用地を買収することを決定した<証拠略>。

H 同年一〇月二三日、かねて確保してある大観宮建設用地につき宗教法人の許可があれば宗教法人大観宮に契約をやり直すこと及び残代金を支払うこと等について承認・決定した<証拠略>。

I 同年一二月四日、各地の保養所のうち、平和道場については宗教法人大観宮に、他の七か所については財団法人天下一家の会に、それぞれ所有権移転登記をして管理維持することにつき、定時会員総会に諮ること、秋田県角館町の町営老人福祉センター建設資金として三〇〇〇万円を寄附すること、さらに、財団法人天下一家の会に対し、年度末に一億円の寄付金を支払うことを審議、決定した<証拠略>。

J 昭和四九年一月二九日、基本財産である前記畜研用地を財団法人天下一家の会の社会福祉事業施設の敷地とするために同法人に寄附することを決定した<証拠略>。

K 同年九月四日、新たな無限連鎖講として「洗心世直し協力会」コースを開設すること、東京事務所及び山形県研修保養所を購入、設置すること及び研修保養所の設置、購入に関する特別委員会を設置することが決定された<証拠略>。

L 同年一一月一三日、秋田県男鹿市所在のホテルとして使用中の土地建物(所要額一億四〇〇〇万円)を研修保養所用地として購入することなどを決定した<証拠略>。

M 昭和五〇年四月二九日、新たに共済組合規約及び共済給付規定を設け、その資金として入会金収入の二〇パーセント相当額を充てることを決定するとともに(同年三月一日から実施していたのを、後から追認したもの)、昭和四九会計年度決算、昭和五〇会計年度予算案及び阿寒学園・北の峯学園に対する寄附などが承認された<証拠略>。

右に認定したところによれば、右Gの土地買収の件など、内村会長自らが理事会に諮りその判断を求めているが<証拠略>、支部や保養所等の設置は会員の要望により行われ、その設置場所の選定等は、支部で提案され、本部で調査の上決定されており<証拠略>、新しい講の設置について、一理事の提案に基づき、検討することとされたり<証拠略>、第一相研の法人税課税に係る異議申立てについても、第一相研の理事会に諮って決定されたこともあり<証拠略>、理事会においては、会長のみならず、他の理事も自由に議案を提出し、意見も活発に出されていた。

(3) 会長

第一相研においては、定款上、内村が終身理事かつ会長とされ(二〇条)、会長が第一相研を総括・代表すると定められ(二一条一項)、会長が会務執行の決定機関である理事会(同二一条三項)で決定した事項について団体を代表する執行機関とされていた<証拠略>。

(4) その他の組織

<1> 本部組織

第一相研は、熊本市本山町六三五番地の本部建物内に本部を有し、そこには、理事のうち会長及び副会長二名が常勤していた。また、右本部には、無限連鎖講の事務処理を行う職員多数が常勤しており、事務職員の数は、昭和四七年七月四日付けの給与支払事務所等の開設届出書提出時において八〇名であった<証拠略>。

<2> 県支部組織

第一相研の各県支部はねずみ講が内村の個人事業として行われていた当時、会員の数が特定の県に集中し偏在していたことから、そのような県においては、当初会員同士の親睦のグループができ、それが拡大して県支部という団体に発展したものであったが、その後本部の働きかけで、正式の第一相研の下部組織となった<証拠略>。

第一相研には、その設立当時、青森、秋田、山形、富山、岐阜、大阪、長崎及び熊本の各府県に県支部が設置されていたが、昭和四七年七月に埼玉、石川(弁論の全趣旨)、同年八月に長野<証拠略>、同年九月に兵庫<証拠略>、昭和五一年七月に神奈川の各県支部が本部によって認可されている<証拠略>。

これらの県支部には、本部から給与の支払を受ける支部長(一部の支部長は理事を兼任)及び職員が置かれていた。また、その下部組織として地区支部や連絡事務所が設置されており<証拠略>、そのいずれの組織をも有しない県支部はなかった<証拠略>。そして、これら県支部は、その所在する府県内の会員を所轄するとともに、県支部の存在しない近隣都道府県内の会員をも管理しており、その運営費用は、社団の設立当初は本部から定額(月額三〇万円)の予算の範囲内で実費支弁されていたが、昭和四八年六月一九日の理事会決議以降は、人件費及び家賃を除き、本部に送金されてくる講加入者の入会金の一〇パーセント相当額の予算の範囲内で賄うべきこととされていた<証拠略>。

そして、県(支部)大会を開催するなどしてこれら県支部が会員代表の選出母体となっていたことは、前記のとおりである。

<3> 思想普及員

従来から講会員の一部には、講会員の拡大に熱心な有力会員がいて第一相研の組織の中核となっていたが、ねずみ講は、その仕組み上、会員の新規加入が停止すると第一相研の本部はその財政的基盤を失うとともに、贈与金を受け取れない既加入の会員の不満が増大して、会員と本部、会員相互間のあつれきが生じてくることから、第一相研では、会員の拡大に積極的に取り組むこととし、末端会員の子会員(新規講加入者)二名の獲得を援助するため、昭和四八年以降数次に分け、平和道場において四日間にわたり、有力会員からなる普及員候補者を対象に講の仕組みに関する講義その他の研修を行い、会員の拡大に当たらせていた。そして、研修会に要する費用は、研修参加者の往復旅費を含めて第一相研が負担し、この研修会を受講した会員は思想普及員となり、所轄県支部又は管理県支部に所属して新規加入者の勧誘に当たったが、その数は昭和五一年五月の時点において一六一三名に上った。

また、思想普及員には、勧誘指導に当たった新規講加入者の入会金の二〇パーセント相当額が「思想普及費(車代)」の名目で本部から県支部を経由して手当(歩合給)として支給された。さらに、思想普及員五名以上(昭和五〇年一月三一日の理事会決議以降は一〇名以上)をもって思想普及員連絡事務所を設置することとし、昭和五一年五月時点で全国二六か所に設置されたが、当該連絡事務所は独立採算制とし、当該普及員が勧誘指導に当たった新規講加入者の入会金の五パーセント相当額が、連絡事務所の「運営費」の名目で本部から県支部を経由して支給されていた<証拠略>。

(三) 団体財産の管理、経理処理について

(1) 基本財産の特定と経理処理の変更

第一相研においては、創立総会開催の当時から、定款の別紙に「基本財産目録」掲記の財産、すなわち、内村個人名義でねずみ講事業に供されていた土地建物、八保養所及びその他の不動産が第一相研の基本財産に属することが示され、その後も昭和五〇会計事業年度以降は、第一相研の作成に係る「事業概要」の「基本財産目録」掲記の財産が第一相研の基本財産に属することが示されていた<証拠略>。

また、創立総会開催日である昭和四七年五月二〇日以降、第一相研では、決算に必要な独自の諸帳簿(収支計算書、本部経費帳、資産元帳、損益元帳)が新規に備えられ、あるいは、新規の記帳が開始されるとともに、第一相互経済研究所として従来記帳されていた本部元帳は、おおむね同月一九日をもって閉鎖されている<証拠略>。すなわち、金銭出納帳に関しては、同日をもって閉鎖した後、新たに記帳を開始し<証拠略>、二七項目にわたる勘定科目を有する資産・負債に関する元帳と六七項目にわたる勘定科目を有する損益に関する元帳を新たに設け、「収支勘定集計表」等の名称を付した残高試算表を毎月作成することになった<証拠略>。

さらに、同年一〇月二八日には、本部、支部、研修所(保養所)ごとに会計諸表、帳簿書類を備え付け、現金、預金その他の資産の出納及び管理について記録すべきこと等を定めた経理規程が制定され<証拠略>、これに則り、各支部においても、金銭出納帳や什器備品を記載した資産台帳が備え付けられ、右経理規程に従った経理処理がされた<証拠略>。

(2) 資産の管理・処分について

右(1)のとおり、第一相研の基本財産に組み入れられた財産は、内村個人の財産から分離して管理されていた上、定款上、基本財産の処分には会員総会の承認を要することとされ(一一条)、また、基本財産への繰入れは、理事会の決議に基づいて行われることとされていたが(九条)、実際にも、前記認定のとおり、定款の規定に従った処理が行われていた<証拠略>。

(3) 取引上における使用名義

内村は、昭和四二年五月一九日以前の不動産取引においては、「内村健一」、「天下一家の会代表者内村健一」又は「第一相互経済研究所代表者内村健一」等の名義を用いており、そこでの捺印は内村個人の認め印を押印して行っていたが<証拠略>、創立総会以降においては、不動産取引の大半が「天下一家の会・第一相互経済研究所・会長内村健一」の名義を用いて行われているほか、同名義でないものについても、その旨の覚書を別途差し入れたり、第一相研の性格上内村個人名義で契約するものであることを明記するなどによって、相手方に対し内村個人の取引ではなく第一相研が取引主体であることを明示しており、そこでの捺印も団体印と会長印を押印して行っていた<証拠略>。

また、別府研修保養所の増築工事契約においても、その工事発注者は第一相研とされ、相手方は第一相研を発注者と認識していた<証拠略>。

さらに、昭和四七年五月一九日以前においては、ねずみ講事業に関して内村が保有していた預金の名義として、「第一相互経済研究所代表者内村健一」という名称が用いられていたのに対し、創立総会開催時以降においては、「天下一家の会・第一相互経済研究所会長内村健一」という名称が、各県支部においても、第一相研の支部名義が使用されるようになり、ねずみ講事業等の活動の成果として収得した金員を団体の財産として預金し、個人財産と区分して管理するようになった<証拠略>。

(4) 税務官署に対する届出名義等について

第一相互経済研究所内村健一名義の給与支払事務所は、昭和四七年五月一九日に廃止され、翌二〇日に第一相研名義の給与支払事務所を新たに開設した旨の届出書が、同年七月四日、被告熊本西税務署長に提出された<証拠略>。

昭和四七年四月一日から昭和四八年三月三一日までの事業年度以降の事業年度に係る第一相研名義の法人税の確定申告書は、内村健一個人の所得税の確定申告書とは別途に提出されている<証拠略>。

昭和四八年四月一日から昭和四九年三月三一日まで及び同年四月一日から昭和五〇年三月三一日までの各事業年度分についての法人税の更正処分に対する異議申立てや、被告熊本西税務署長に対する郵便物の返送の添書が第一相研名義でされている<証拠略>。

内村に対する給与支払に係る給与所得の源泉徴収票が第一相研名義とされている<証拠略>。

熊本社会保険事務所に提出された社会保険の新規適用現況届には第一相研が事業主とされ、内村を含め第一相研の職員に対し適用認可された<証拠略>。

さらに、第一相研は、第一相研に対する法人税の更正処分及び贈与税の決定処分に係る本税を、その事業活動から生じた資金をもって自主的に自己名義で納付し、国税局が発行した第一相研あての領収証を受領している<証拠略>。

以上の諸事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、

(一) 第一相研においては、定款七条一項に基づいて第一相研の主宰する複数の「相互扶助の組織」、すなわち、第一相研の主宰するねずみ講のいずれかに加入し、かつ、同条二項所定の手続を経た者が第一相研の会員資格を取得し、定款八条所定の事由が生じない限り、会員は引き続き会員資格を保持するものであったこと、

(二) 第一相研の会員総会は、理事会で決定された会員代表数に基づいて、支部で選出された代表の参加を得て開催され、定款所定の付議事項を審議し、右会員代表の多数決により議決を行っていたものであり、しかも、決議内容は広報等によって会員に周知されていたのであるから、会員総会は社団の基本的意思決定機関として機能しており、実体を具備していたこと、

(三) 資産の管理・処分の面において、第一相研と内村個人との間に資産、経理の混同があることは否定し得ないものの、全体としては、第一相研は内村個人や構成員から独立した資産を有し、特に、創立総会開催後は、取引上の使用名義や預金名義の変動からみても、独立した取引主体として、財産の管理処分を行い、税務官署に対する届出名義等も明確に区別し、第一相研と内村個人が異なる納税主体として併存するものとして両者を区別していたこと

以上の事実が認められる。

4  右の点に関し、

(一) 甲第三号証(編注、福岡高裁平成二年判決)中には、支部の設置や廃止(連絡事務所への格下げ)について、理事会に付議されていない場合があるから、定款、支部運営規則及び支部認可審査に関する規定が全く無視され、適宜、本部で処理していたと推認される旨の指摘がある。しかしながら、第一相研の支部のうち、理事会に付議せずに設置されたと右甲第三号証で指摘されているのは長崎県、北海道、沖縄県の各支部にとどまり、その他の支部の認可、支部長の選任については理事会に付議されている。また、支部の廃止はそもそも定款上理事会の付議事項とされていなかったから、理事会以外においてこれを決定したとしても、定款に反するものではない。したがって、定款、支部運営規則、支部認可審査に関する規定が全く無視されていたということはできない。

また、前示のとおり、支部大会の開催通知の方法は、必ずしも一定しておらず、広告掲載等の方法が用いられていることからも、すべての会員に対し個別に通知が行われているわけではないから、その意味で不完全なものであることは否定し得ないものの、第一相研においては、全国各地に膨大な数の会員が散在し、かつ、日々会員が増加し続けており、正確な会員の所在を網羅的に把握して、連絡網を整備することが困難であることをも考慮すると、右の一事のみをもって、社団における意思決定機関ないし下部機関としての機能をおよそ果たしていないとまでいうことはできない。

(二) 次に、理事会の業務決定に関し、原告らは、(1)理事会の決議なくして、大観宮への基本財産の譲渡がされていること、(2)理事会において第一相研で実施すると議決した講事業を大観宮が主催者として実施していること、(3)会長の報酬等の引上げについて、理事会に報告されていないこと、(4)理事会で決定された九段ビルの購入が取り止めとなったほか、九段マンション等の不動産の購入も事後報告で済まされていることなどを挙げ、内村の理事会無視の行動は枚挙にいとまがなく、理事会は真に重要な業務決定に関与することなく、名のみの存在であった旨主張する。

しかしながら、(1)については、第一相研の定款上、基本財産の処分は会員総会に付議され、その承認を要するとされているところ(一八条、一一条)、大観宮への基本財産の譲渡に関しては、昭和五二年八月二二日の理事会において、列席していた税理士を交えて審議され、臨時会員総会に付議することが決定された上<証拠略>、同年九月八日に開催された臨時会員総会で大観宮への所有権移転が承認、可決されたものであり<証拠略>、定款の規定に則った処理がなされていることに加え、(2)ついては、昭和五二年七月二二日の理事会において、新講の設立に関し実行委員会において研究検討すべきことで意見が一致したものの、具体的に第一相研で実施することまでが決定されたわけではなく、(3)についても、会長、副会長の役員報酬額は、理事会に付議され、決定された場合や会長及び税理士に一任した場合もあること<証拠略>等に照らすと、理事会がまったく名のみの存在であったとまではいうことができない。

もっとも、第一相研の定款上、重要な財産の処分等が理事会に付議すべき事項とされているわけではなく(二五条参照)、資産の管理は内村会長が行うこととされていたから(一〇条)、右(4)の点も含め、たしかに理事会が重要な財産の処分に関与しない場合も生じ得ないわけではないが、どの機関に意思決定事項をどの程度分配すべきかは社団内部の自治により定められる問題であるから、その当否は別として、右のような場合があることの一事をもって理事会の存在が名のみであるということもできない。

(三) なお、前示のとおり、内村に終身理事・会長の資格が認められていること、理事の三分の一を会長が指名することとされていることから、第一相研においては、株式会社等の社団に比べて権限が内村個人に集中し、社団の構成員の意思が業務執行に反映しないようでもあるが、団体の意思決定の方法自体、その私的自治にゆだねられるべきものであることに加えて、第一相研の定款上、会員総会の決議に基づき会員の意思によって変更することも可能であって(二六条)、第一相研の構成員としては、内村が代表機関として不適格であることを理由に、定款を変更し、代表者を変更することも全く不可能というわけでもないから、定款の規定が内村に権限を集中させる形になっていたとしても、そのことをもって、社団の構成員の意思が業務執行に反映し得ないわけではないというべきである。

(四) また、第一相研の財産管理に関し、第一相研が社団として成立した年度の決算報告書<証拠略>の始期は昭和四六年七月一日となっており、社団として成立した創立総会の日と一致しない。しかし、これは内村自身が創立総会開催の前後を通じ、ねずみ講の事業主体は人格なき社団である第一相研であると主張していたことから、客観的には実体を具備しない段階において、社団として成立したことを前提に会計年度の始期を定めたものとみることもでき、内村個人の認識はともかく、第一相研と内村個人の経理との間で混同があったとまでいうことはできない。

(五) もっとも、前示のとおり、第一相研の資産処分等のうちには、理事会又は会員総会の承認を得ずに内村の一存で決定されているものもあるが、定款の規定によれば、会長の一存で決定することができないとされているのは基本財産の処分に関する事項のみであり(一一条、一八条)、それ以外の資産(通常財産)の処分等については特段の定めはなく、会員総会又は理事会において承認を要するとされるのは、会長から付議された場合に限られ(一八条(4)、二五条(5))、資産の管理は会長が行うものとされ、管理方法は理事会の決議によって定めるものとされていた(一〇条、二五条(5))から<証拠略>、右定款の定めに照らすと、基本財産以外の資産について、理事会又は会員総会の承認を得ずに内村の意思に基づいて処分されたとしても、それは、第一相研の会長としての業務執行の一環として許容されていたことになり、その当否は別として、そのことをもって、第一相研の資産の管理・処分が定款等に則って行われず、第一相研と内村個人の財産管理が混同されていたということはできない。

また、なるほど内村個人が負担すべき内村個人の刑事裁判費用報酬や内村がねずみ講事業に関して加入者から訴えられ、支払を約した和解金が第一相研から支払われているが<証拠略>、前示のとおり、内村個人の認識に従い、ねずみ講事業にかかる費用として、総会の前後を通じて第一相研が負担すべきものとして処理されたものであって、かかる経理処理が適切でなく是正を要することは明らかであるとしても、第一相研の人格のない社団としての生成過程における内村の個人ないし第一相研の代表者としての認識と客観的事実との間に齟齬が存したにすぎず、これをもって、直ちに内村と第一相研の財産管理が混同しているとまではいえない。

さらに、第一相研に帰属すべき不動産に内村が無償で居住するなど、内村が第一相研の財産を一部私物化していたとみられる事実も認められる<証拠略>。しかしながら、このようなことは我が国においては、いわゆる同族会社とその代表者の間においてしばしば見受けられるところであって、このことを捉えて直ちに社団成立の基礎を欠くほどに経理区分が不明確であるということもできない。

5  以上にみたとおり、

第一に、昭和四七年五月二〇日の創立総会以降、第一相研においては、団体の意思決定の機関として会員総会が、業務執行・対外的代表機関として理事会及び会長が存在し、それらが現実に機能していたものであり、また、団体財産が構成員の固有の財産から独立して処分管理の対象とされ、かつ、団体としての人的・物的組織を備えていたものであることは、先に判示したとおりであるから、第一相研は団体としての組織を備えていたということができる。

第二に、第一相研の会員総会の決議が参加会員の多数決によって行われることは定款の定めるところであり(一七条)、これに従って会員総会が運営されていたこと、右会員総会は、第一相研の各支部において選出された会員代表によって構成され、その会員代表の数は、各支部の会員の数の実情を考慮して理事会において決定するとされ(定款一五条)、会員の意思を会員代表を通じて会員総会に反映させるための手続が保障されていたことも、前示のとおりであるから、会員総会では多数決の原則が機能していたということができる。

また、第一相研の理事会の決議は参加理事の多数決によって行われ、現実に業務執行の決定機関として機能していたことも、前示のとおりであって、理事会の構成員たる理事の三分の二は、会員総会の決議により選任されており、理事会の構成に会員の意思を反映し、業務執行を適正ならしめるための手続が保障されているという意味においても、理事会では多数決の原則が機能していたものということができる。

第三に、第一相研は、構成員の変更、すなわち、会員が死亡、退会、除名によってその資格を失い、あるいは講に加入した新たな会員が資格を得たとしても、定款二条に定める第一相研の目的を遂行するための第一相研の組織自体には何らの変更もなく、団体としてそのまま存続し、定款三条に定める事業を継続することが可能であることも既に判示したところから明らかである。

第四に、第一相研の代表の方法、総会の運営及び財産の管理の実態は前示のとおりであるほか、代表者(定款二〇条一項、二一条一項)、業務執行の決定機関とその構成員の任期・選任方法(同二〇条二項、二一条三項、二二条)、総会(同一四ないし一七条)といった機関に関する事項が組織の基本的な内部規約たる定款により確定しており、機関間の権限の分配も定まっているというべきである(同一八条、二五条、二六条参照)。

また、第一相研に属する財産の範囲及び管理の方法についても、定款で確定しており(同九ないし一一条、一八条一項)、その他の経理処理についても、経理規定により確定していたということができる。

以上の事実によれば、第一相研は、団体としての組織を具備すること、多数決の原則が実践されていること、構成員の変更にもかかわらず団体の存続性が認められること及び代表の方法、総会の運営等団体としての主要な点が確定していることから、前示昭和三九年最高裁判決の判示に係る四要件をすべて具備していることは明らかというべきであり、昭和四七年五月二〇日の創立総会以降、第一相研が人格なき社団として成立したものというべきである。

三1  右の点に関し、原告らは、前掲福岡高等裁判所平成二年七月一八日判決(昭和五九年(行コ)第四号。<証拠略>)を引用した上で、内村は、単にねずみ講事業への批判回避及び課税対策の一環として、定款作成の外観を作ることを企図し、有力会員に会員代表の割当てをして創立総会を開催したにすぎず、本来内村に定款作成につき会員の総意を反映させる意思はなく、手続的にも、(1)定款案を採択した第二回発起人会、理事会から一〇日足らずの間に、会員に対して周知されないまま創立総会が開催されたこと、(2)創立総会の委任状提出者がいかなる範囲の会員を代理したか明らかでないこと、(3)各支部に対する会員代表者数の割当てが会員数や入会口数の割合と均衡が取れていないこと、(4)創立総会後も総会以前の入会者に対し定款の内容を周知させていないことの瑕疵があり、これらを総合すると、創立総会での会員代表による議決は団体形成意思の表現と評価するに値せず、第一相研の定款はその作成につき重大な瑕疵がある旨指摘する。

しかしながら、創立総会の議事録によれば、委任状提出者は支部選出会員代表として数えられているのであるから<証拠略>、委任状提出者が支部の会員を代理したものということがまったくできないわけではない。また、第一相研の定款では会員代表の数は各支部の会員の数に応じて理事会で定めることとされているから(一五条二項)、各支部に対し、その会員数にかかわらず、おおむね同数の代表を割り当てることは右規定に反する疑いがないではないものの、ねずみ講の会員数が日々大幅に増加・変動しており、このような代表の割当ても理事会において決定されていることを考慮すると、右会員代表数の割当方法が会員の意思を創立総会に反映する手段として全く不合理なものとまでいうこともできない。さらに、なるほど、創立総会以前の入会者に対しては、創立総会以後の入会者と異なり、会員証、勧誘手続に必要な書類、定款等が送付されておらず、定款の内容について個別に周知される手続は取られていなかったことは前記のとおりであるものの、他方、前記認定のとおり、定款は本部及び支部に備え付けられ、入会者はいつでもこれの閲覧を請求することができたのであるから、定款の内容を周知させる方法がまったくなかったとまでいうこともできない。以上の諸点を総合勘案すると、創立総会の開催に関し、右のような手続的瑕疵があるとしても、それのみで第一相研の定款の作成に重大な瑕疵があり、その効力が直ちに否定されるとまではいえないというべきである。

また、原告らは、右福岡高裁判決を引用して、ねずみ講会員は、その仕組み上、自己系列の孫会員以下の会員から送金を受けることを最大の目的として認識しており、他会員とは利害を同じくしているわけではなく、第一相研の会員として扱われる者は、相互に顧客であるという程度の認識しか持っていない不特定多数の者らにすぎないとした上、ねずみ講の加入者は、自己の系列下の者からの射倖的な送金を目当てに加入しており、他の加入者との共同の目的意識や団体形成意思は稀薄であるとし、もともと会員には加入口数に相当の差があるのに表決権等での考慮はされていない不合理性があること、会員総会が総会員の意思を結集する組織となっていないこと等に照らすと、第一相研には団体意思の形成に問題があり、社団性の要件それ自体を否定的に解すべきである旨指摘する。

たしかに、第一相研の会員は、自己の出えんした入会金等を上回る現金を受領することを期待し、まさにその点に最大の関心があったことは否定し得ないところであるが、そのことはとりもなおさず後続の会員がねずみ講に多数加入することを意味するのであって、その観点からは、第一相研の会員は、講加入者が増大し、組織の発展・拡大を目指すという共通の利害及び認識を有していたということもできないわけではなく、これに加えて、右会員において、後続の会員の勧誘を容易にするため、第一相研が積極的に宣伝活動等を行うことを期待していたことも容易に推認し得るから、その当否は別として、団体意思の形成自体がことさらに稀薄であったということはできない。そして、会員総会が総会員の意思を結集する組織となっていたことは前記認定のとおりであるから、会員に加入口数に応じた表決権が考慮されていないという不合理性は否定し得ないとしても、第一相研において、社団に不可欠な団体意思の形成に問題があり、社団性の要件自体が否定されるべきであるとまでいうことはできない。

さらに、原告らは、社会的な実体としては団体の存在が認識されるとしても、構成員の多数意思による運営が確保されていない等民主的法秩序全体の観点と相容れない団体に対しては、人格なき社団としての地位を与える途はない旨主張する。

しかしながら、団体の意思決定の方法は、原則として、国家が強行法規によって介入し、画一的に規制すべき問題ではなく、その内部問題として私的自治にゆだねられることは別として(なお、民法三八条、六九条等参照)、前示のとおり、第一相研においては、組織上、構成員の多数意思による運営が一応取られていたのであるから、原告らの右主張は採用することができない。

四1  そこで、本件各更正処分等の適法性につき判断するのに、前示の事実に加え、弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 第一相研が創立総会以降行っていた講は、(1)新規加入者が第一相研の指定する先順位の会員に対し一定の金額を贈与するとともに、(2)第一相研に対して入会金を送金し、かつ、(3)子会員二名又は四名を勧誘して当該講組織に加入させ、(4)会員は所定の順位に達した段階で第一相研の指定した後順位の会員から一定の金額を受領することなどを骨子とするものであること、

(二) 第一相研は、本件ねずみ講の入会申込者と先順位の会員との間の金銭贈与契約の成立・履行を仲介するとともに、先順位の会員の委託を受け、入会申込者の金銭贈与の相手方の指定をし、その役務に対する報酬として入会申込者から入会金を徴収していたこと、

(三) したがって、第一相研の営む右ねずみ講は、法人税法施行令五条一項一七号所定の「周旋業」(他の者のために商行為以外の行為の媒介、代理、取次等を行う事業)若しくは同条一〇号所定の「請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)」としての実体を具備し、同法二条一三号所定の「収益事業」に該当するものであること、

(四) 第一相研が、本件ねずみ講事業に付随して、各地にねずみ講会員が利用できる研修保養所等を設け、その利用者から宿泊料等の収入を得ていたこと、

(五) 右研修保養所等の経営に係る業務は、法人税法施行令五条一項一五号の「旅館業」であって、これまた、同法二条一三号所定の「収益事業」に該当するものであること、

(六) 被告西税務署長は、第一相研は収益事業を営む人格のない社団に該当すると判断し、第一相研からなされた確定申告において計上されていなかったもの(入会申込者から送金された入会金等ねずみ講に係る収益)を適宜加算するなどして、昭和四八年三月期分から昭和五二年三月期分までについて、別紙八記載のとおり、第一相研の確定申告から加減算して各課税標準を算定し、各更正処分を行ったこと、

なお、被告西税務署長は、第一相研に対し、右各更正処分により新たに納付すべきこととなった税額につき過少申告加算税を賦課したこと、

(七) 第一相研は、昭和四七年五月二〇日の創立総会決議により、従前内村の所有であった別紙五基本財産目録記載の財産が第一相研に属する財産として承認され、また、それ以外にも内村の所有財産であった現金、預金その他の債権等が、右創立総会以降昭和四七年中に逐次第一相研に贈与されていることが第一相研の帳簿書類や理事会の議事録の記載内容等から判明したこと、

(八) そこで、被告西税務署長は、第一相研の設立の際又はこれに引き続いて内村から第一相研に対してその設立のための財産の提供があったものとして(なお、内村から第一相研に提供ないし贈与されたものと認定した財産の種類ごとの評価額は、別紙九の積極財産欄記載の財産等の価額のとおりであるが、贈与税の課税価格は、右価額から第一相研が内村から引き受けたと認められた同表の消極財産欄記載の各債務の価額を控除して算定された。)、贈与税の決定処分を行ったこと、

なお、右財産の提供ないしは贈与に関し、第一相研から所定の申告期限内に贈与税の申告がなされなかったため、被告西税務署長は、右決定処分により新たに納付すべきことになった税額につき無申告加算税を賦課したこと

2  右の事実によれば、被告西税務署長が第一相研が人格のない社団に当たるとしてなした本件各更正処分等はいずれも適法というべきである。

3  ところで、原告らは、内村から第一相研に対して贈与された財産及び本件ねずみ講事業による収益等は講会員から違法に取得したものであるから、第一相研に対してなした本件各更正処分等はいずれも無効である旨主張する。しかしながら、所得税法上、所得の概念は、もっぱら経済的に把握すべきであり、所得税法は、一定期間内に生じた経済的利得を課税の対象とし、担税力に応じた公平な税負担の分配を実現しなければならないのであって、課税の原因となった行為が、厳密な法令の解釈適用の見地から、客観的評価において不適法・無効とされるかどうかとは無関係に、いやしくも納税者が経済的にみて、その利得を現実に支配管理するかぎり、課税の対象たる所得を構成するものと解するのが相当である。したがって、本件各更正処分等がいずれも適法であることは明らかであって、原告らの主張は採用することができない。

よって、本件各更正処分等の取消しを求める原告らの請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないことが明らかである。

五  また、本件各更正処分等が適法であることは右のとおりであるところ、これを前提とした本件法人県民税、法人事業税及び法人市民税の各更正処分等が適法になされていることも前示のとおりであって、その効力に何らの消長を来さないことも明らかである。

第四以上によれば、原告らの本訴請求はいずれも理由がないから棄却するとこととし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九三条一項本文、九四条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 江藤正也 足立謙三 大藪和男)

別紙及び別表<略>

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